「介護を学ぶ場」の普及
未来に向けたこの課題の必要性を伝えていきます。
「介護はすべての人に必ず関わってくるもの」「誰もが避けて通れないもの」
それなのにこの国ではほとんど「学びの場」がもたれないまま。
そのせいからも、現代の社会問題である
「介護の仕事へのマイナスイメージ=介護職の成り手不足」
「介護離職・ヤングケアラー問題」
そんな状況を生み出してきたのではないでしょうか?
わが国の未来に向けた課題として、2つの側面から「学びの場」の必要性を訴えていきます。
➊「学校」での授業化を推進
文科省の「学習指導要領の改定」により、家庭・地域で高齢者との関わりを協働するために必要な学習・指導が推進されるようになっています。
島根県ではいち早く、中学校での「福祉の授業」が実践され進んでいます。
「体験的な活動」として、生徒が立ち上がりや歩行などの介助の仕方を学び、介助する側とされる側の気持ちや必要な配慮について話し合う授業が行われています。
また体験にとどまらず、介護の魅力や価値(楽しさ・深さ等)の学習も一体的に進められています。
「福祉の心の醸成」「福祉の人づくり」を効果的に推進することを目指す取り組みです。
【生徒の感想】
★福祉の仕事って人の笑顔を間近で感じることのできる素晴らしい職業だなと思いました。
★実際に働いている方のお話を聞いて、初めは大変そうなイメージしかありませんでしたが、今回のお話から、とてもかっこいい仕事だなと感じました。
★「みんなの幸せがなければ自分の幸せもない」という福祉の考え方は確かにそうだなと感じました。大切なことを聞いたので、日常生活に活かしていきたいです。
★介護の仕事は今までマイナスのイメージがあったけれど、お年寄りの生活を支援し、一生に一度の出会いが出来るとても魅力的な仕事だなと感じました。
★車椅子の体験では、乗る人の気持ち、推す人の気持ちを考えることができました。車椅子で困っている人がいたら助けてあげようと思いました。
【先生の感想】
★生徒からは、普段はなかなか書けない日記に勉強になったと書いてありました。
★現在「共に生きる」をテーマにした福祉学習に取り組んでおり、一連の学習の早い段階で「介護福祉の基礎」「地域福祉」等について学ばせていただいたこと、実際に体験させてもらったことは、生徒にとってかけがえのない学習になりました。
★今までにやらなかった取組みで生徒達も意欲的でした。実際に職業に就かれている方の話を聴く機会がもてて良かった。車椅子体験を実生活に役立てたいという感想が多くありました。
島根県での「福祉の授業」は令和元年に松江市から始まり、現在は出雲市、大田市、浜田市など県内各地に広がりつつあるそうです。
コンシェルジュ(現在35名が登録)の方も
「自分の仕事の素晴らしさを再確認できたり、互いの価値観を交えることで新たな発見があった」
など、とてもやりがいを感じる成長の場となっているそうです。
ちなみに、授業方法は「DVDや漫画を活用した学習」「施設側の出前授業」、高校生には「施設訪問」も行われているそうです。
この「福祉の授業」が全国の学校に広まることは、
介護福祉の未来にとって、大きなメリットになるはずです。
未来の社会を担う中高生たちが、
超高齢化していく日本が抱える社会問題「介護人材の不足」を知り、
高齢者の生活、認知症のことや、それを支える介護の仕事を学ぶ。
介護職は日本社会が人材切望する大切な職業であり、彼らの職業選択肢の一つであることを、中学生の早い段階から知ってもらう。
そして何よりも
『介護職へのマイナスイメージを払拭してくれる』
このメリットの期待が非常に大きいです。
❷「企業」での学びの場
企業の「介護離職者」は、2022年は10万6千人。
高齢化・生産年齢人口の減少がすすむなか、いわゆるビジネスケアラー(仕事をしながら家族等の介護に従事する者)が増加しており、我が国の社会問題として浮かび上がってきています。
40代~50代前半という働き盛りの社員の離職は、社会にとっても大きな損失。
2030年には家族介護者830万人に対して約4割(320万人)がビジネスケアラーとなり、経済損失額は約9兆円に上るとされています。
2016年に政府は「介護離職者ゼロ」を掲げ、介護休業制度の見直しが行われました。
さらに2024年「育児・介護休業法」改正では「仕事と介護の両立支援制度の強化」の対応がきまったものの、
「休みをあげたからいいだろ」「仕事と介護の両立は社員自身の自助努力により行うもの」という企業側の感覚はまだまだ蔓延しているのが実態のよう。
社員は悩みを上司に相談しづらく、徐々に心身の疲労が蓄積していき、やがて本人も望まないまま離職に至ってしまうのです。
介護休業93日は分割・コマ切れで使えるなど工夫ができるようだが、企業側も社員側もともによく理解できていない人が大半という。
大手企業では徐々に浸透しつつあるも、中小企業・個人事業所では「保育に比べて使いづらい」という声が多いのが現状。
また、社員の経済的問題も影響が大きい。
経済力に余裕がある人は介護サービスを利用できるが、経済力が低い人はサービスを使えずに自分自身で介護を行うしかない、というふうに。
また、親の老いや認知症の進行に直面した時に、気持ちが安定している人ってほとんどいないのです。心・気持ちの整理が難しいのです。会社にうまく相談できずに独りで抱え込んでしまう、ストレスが大きくなっていき、離職の決断につながっていくのです。
この「介護離職」問題の対策として、
企業での「介護の学びの場」を設けていくことが必要と考えます。
企業側・従業員がともに学び、理解し合う場に。
厚労省の改正案(令和7年4月施行)でも
『介護に直面する前の早い段階(40歳社員)での情報提供』
が義務づけられました。
情報事項は
①介護休業に関する制度・介護両立支援制度 ②介護休業・介護両立支援制度の申し出先(人事部など) ③介護休業給付金に関すること
家族の介護に直面してからでは遅い・対応できないことを企業も社員も理解して、そうなる以前から情報の発信が大切と言うわけです。
今年4月から始まったばかりで、企業側も手探りの状態ですすめていくでしょう。
ちなみに、著者の想いとしましては、
この企業の「介護の学びの場」は、40歳の社員だけではなく、
「全社員を対象に、年一回の実施」
が最善と考えます。
特定の社員だけが情報を受けても、他の同僚達が知識がなかったとしたら不信感や混乱をきたすこともありえるからです。
それに一度きりの情報提供では忘れてしまう者が多いはず。
防災訓練等と同様に「年一度は、介護の学びの場を必ず設ける」
そうすることで、職場全体の意識共有ができていくのではないでしょうか。
そして、いざ介護に直面した時にその社員は堂々と「介護休業を活用できる」。会社も同僚も、快く協力体制をとれる。
「介護と仕事の両立」のために
「職場の理解」と「従業員を支える仕組み」を深く浸透させていくこと。
このように、企業や社会においても
「介護福祉を学ぶ場」をひろげていくことで、
国も、企業・従業員もみんなが、同じ想いですすんでいきたいものです。
もちろんまだ「企業の介護学習はどのような形で行うべきか」具体案はありませんが、
地方自治体を中心にして地域がつながっていくことが理想です。
そこには介護業界も積極的に協力していき、企業や地域社会とのつながりを構築していくことで
「介護業界のイメージアップ」というメリットが、きっと生まれていくでしょう。
そして願うならば、著者のように50歳を過ぎてからでも
『介護の仕事に転職してみよう』
と思い立つ人が増えてくれたら最高です。
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