コムスン事件(2007年)を知る

前回記事「介護保険の歴史」を学ぶなかで著者が知った、

介護業界を、いや社会全体を震撼させたショッキングな出来事

「コムスン事件」

2007年当時、介護業界トップクラス企業のコムスンが不正請求や虚偽報告などの違法行為を行っていたことが発覚し、事業撤退に追い込まれた事案。この事件により、約8万人の利用者と2万人の従業員が影響を受け、介護サービスの継続性が危ぶまれる事態となった。

著者が介護職に就いて4年。初めて知ったこの事件への衝撃は大きく、

風化しつつある18年前の出来事を、より多くの介護従事者に伝えたいという思いから

可能な限りしっかりと調べた上で、記事にまとめることにしました。

 

この事件は、ただ一企業の不祥事で済まされる出来事ではありません。

この事件が世間に与えた、介護のマイナスイメージははかりしれない!

たった一企業の不祥事で一気に、将来に続く、

『介護職離れの流れをつくりあげてしまった』

介護業界に大きな傷を植えつけた、それほど大きな事件だったと感じています。


(事件の経緯など)

介護サービスが自由化された介護保険制度は2000年に発足。

「儲けるチャンス」と多くの民間企業がこぞって参入。

グットウィルグループという野心溢れる営利企業(人材派遣会社)が、「コムスン」という介護企業を買収し、介護事業に参入。

日本初の24時間365日体制の老人介護サービスを開発。1992年厚労省から「24時間巡回介護モデル企業」として指定を受ける。1998年「過疎地域在宅福祉サービス推進事業のモデル企業」となる

コムスンは常軌を逸するスピードで店舗を拡大していく。

また、テレビCM(ハローコムスンというキャッチフレーズが有名)など広告宣伝によるイメージアップが成功し、2001年売上7億→2006年には7700億と、急スピードで成長を遂げていく。

しかしその手法は、福祉の理念とはおよそかけ離れたものであった。

2000年介護保険の運用が始まってみると、サービス利用は報酬単価の低い種別のものが多く、需要予測が甘く過大過ぎたため「採算が取れないから」と1200カ所開設した事業所をすぐさま400に統合し、大量の人員整理を行うなど、大きな混乱を引き起こしている。

(元職員の証言:事業所責任者)

上層部から報告されるのは売上ばかり。徹底して利益に重きが置かれた。

新規の利用者も家事援助なら断っていく(身体援助より介護報酬が低いため)

「ニーズより売上が大事」になって、善悪の感覚がマヒしてゆく感じだった。

介護の質も明らかに落ち、ヘルパーは訪問先の滞在時間を少しでも短く切り上げようと調理の途中でも帰るなど。それが営利企業の介護なのです。

と語る。ほどなくしてこの方は退社されている。

 

発端は2006年12月。東京都は同社が介護報酬の不正請求を行っている疑いがあるとして、都内の事業所187カ所の内53カ所に立ち入り検査を実施。またコムスンを巡っては都に「事業所がいつも留守番電話」等の様々な苦情が寄せられていた。

当初、グットウィルグループ(以下GWG)は読売新聞の記事に対して「事実無根」と発表していた。しかしその後、一部に過度請求があったことが判明。東京都から業務改善勧告を受ける。

その後、取消処分がなされようとしていたところ、各所は同日に廃業届を出し、悪質な処分逃れを行った

他県においても過度請求や事業所の登録問題が発覚。東京のケースと同様、処分がなされる前に駆け込みでの事業所の廃業届が出され、各県当局は処分逃れの疑いがあるとした。神奈川県では61カ所の内42カ所を一度に廃止届。兵庫県では監査終了後わずか1時間半後に廃止届を出すなどの事例があった。

2007年6月に厚労省はコムスンの事業所指定の新規および更新の受付停止処分(実質、業界からの退場処分)を発表した。

親会社GWGはコムスンの介護事業を連結会社「日本シルバーサービス会社」に譲渡することを発表するが、各県から批判・拒否する発言が飛び交った。

和歌山県知事(仁坂氏)より「法の制裁を逃れようと考える人間が福祉事業に手を出してはいけない」と批判、シルバーサービスから登録申請があっても拒否する方針を発表。宮崎県知事(東国原氏)等からも同様の発言があった。

各方面からの厳しい非難を浴びて、ついにGWGは全ての事業を関連外企業に譲渡すると発表。

移行先を選定するための第三者委員会も設置された結果、業界大手「ニチイ学館」など16法人への譲渡が決定。

2009年、コムスン及びGWGは解散。2013年清算完了し完全消滅した。


(事件の背景と影響)

介護保険スタート以前は、社会福祉法人しか介護サービスを提供できなかったのですが、

政府は介護を「自由競争化」に移行することを選びました。

民間企業が参入することで

「競争原理が働いてサービスの質は向上するだろう」という狙い

当初は狙いがうまく的中し、業界のぬるま湯状態を変える効果もあったようです。

しかし「利益・ビジネス重視」方針からの、サービスの囲い込み・押し売りという悪質行為の増長や

「介護保険料を湯水のごとくジャブジャブ使っていく」

そんなマイナス方向に向かう企業が増えていってしまったのです。

(事件後の国の対応と影響)

国は、問題の再発防止に向けて介護保険法の改正をすすめます

2008年の介護保険法改正では

「問題の再発防止と法令順守」が柱となりました。

・サービス事業者に対し、法令順守等の業務管理体制の整備を義務化

・立入検査権(それまでは立入検査権がないため不正を突き止めにくかった)、是正勧告、命令権が創設された→『事業者への管理・監督機能が強化された』

その後も、国は介護事業所へのルールをどんどん厳しくしていきました。

施設では「記録」等の事務仕事が半端なく増えていきました

また人員基準もより厳しくなり、加算・減算基準が山ほどつくられます。

施設は膨大な資料作成に追われます。さらに社内研修の義務づけや、資格修得の受験要件も厳しくなり、職員はますます余分な時間をとられていくのです。

度重なるルール変更や報酬削減によって事業所の経営は悪化し、増え続ける業務に疲弊していきます。

そして賃金が低下するにつれて介護職場内では「虐待」「パワハラ」といった、負の連鎖までも生じていったのです

このようなマイナスの流れが増していった介護業界は結局、

どんどんと人手不足が加速していったのです。

(事件を通して見えた問題)

全日本民医連の指摘:

利益と株主配当を目的とする営利企業を、公的サービスに参入させるという制度をつくった厚労省の責任は重い。

たしかにコムスンのような営利企業には「地域の介護に責任を持つ」などという考えはおよそない。

「市場原理に基づく営利性」と

「介護に求められる公共性」は

相容れないものである

介護保険のスタート時に、国が選択した

「介護の自由化」

はたして正しい判断だったのでしょうか?


(最後に)

このコムスン問題について、

当時を知る人は、なぜかあまり語ろうとはしません。

著者の場合ですが、初任者研修や実務者研修などの講師の方々はきっと知っている筈なのに、誰もこの事件を全く伝えてくれなかった。

心情としては「あえて触れたくない事件」なのでしょうか?

そんなせいか「コムスン事件」は今、風化しつつあります。

でも、それで本当に良いのでしょうか?

著者の考えですが

この事件はしっかりと言い伝えていくべき

僕は、伝えていきたいです。

だって、今だにずっと介護事業所の不正問題が続いているじゃないですか。

事件から20年近く経っても、まだ無くなっていないのですよ。

こんなままじゃいつまでたっても、社会の介護への不信感は増すばかりじゃないですか!

こんなことは一刻も早く失くさなきゃならない。

「自分は関係ないから」と、みんなが第三者的立場でいたら、ずっと失くならないのですよ。

「福祉の理念を柱に、仕事を全うしていく」

そのためには、介護従事者みんなで問題をしっかり共有し、

「自分たちは絶対にそんな問題を繰り返さない、

自身にも、事業所にも、絶対に不正を許さない!」

この事件を教訓にして、そう受け継いでいくことが大事じゃないでしょうか

 

介護従事者のみなさんに、想いを共にもてるようにと願い、

しっかりとこの事件を伝えたく、著者の想いを綴りました。

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