NHK番組『介護保険25年目の岐路』第二夜(後編)
【介護が抱える課題と未来への糸口】
著者なりにまとめましたので、どうぞご拝読くださいませ。
2000年に華々しくスタートした我が国の「介護保険制度」は、
成人期を迎えた25年目の今、二つの大きな課題が明白に浮かび上がっています。
その二つの課題とは、
➊人材不足 ❷財源不足
(番組に寄せられた現場の声)
「賃金低い → 人が集まらない → 介護が提供できない → 介護が受けられない → 現場きつくなる
→ 人が辞めていく。負のスパイラルに陥っている」
二つの問題が互いに負の状態で作用し合って、介護保険が立ち行かなくなり始めているのです。
人材不足の解決策
番組では、4人の専門家より解決策が伝えられました。専門家の提言や国の対策をみると、
「生産性の向上」「外国人労働者の拡充」
などが伝えられていますが、これらの効果がどこまで期待できるでしょうか?
とても、抜本的な打開策には程遠い… それが我々の感じ方ではないでしょうか
今回の出演者でただ一人『結城教授』だけが現実的な打開策を伝えてくれました。
その解決策はいたってシンプル
結城教授の言葉
「まず何よりも、これをやらない限り、介護の明日はない」
この言葉に僕は強く共感しました。まさにこれが第一の打開策だと。
全産業平均並み給与に引き上げない限り、新たな人材の参入が期待できるはずがないのです。
「仕事のやりがい」だけで働き手を集めるのには限界があります。
「誰もが生活のために安定した年収を求める」のは当たり前です。
とくに若い世代の参入を求めるためには、必須の課題でしょう。
ちなみに、れいわ新選組の訴えも全く同様です。
「介護職員の月収10万円UP」全産業平均以上への処遇改善を、政策に掲げています。
しかし、介護職の給与が低いことの根本的原因は、
介護保険という枠組での財源不足
にあります。
言うなれば、
「介護職の給与を上げるならば、
自分たちの保険負担料を増やすことも覚悟せねばならない」
国民は、これを認識しておかねばならないのです。
財源不足の解決策
まずは前提の、介護保険の実情をみてみましょう
【介護保険 総費用の推移】
2000年:3.6兆円 → 2024年:14.2兆円
介護保険開始の2000年から約4倍に。
高齢化がハイスピードで進むなか、25年間で4倍も総費用が膨れ上がっているのです。
驚くべきことです。
そして高齢化はさらに進むため、まだまだ費用は膨らみ続けるのです。
次に、
被保険者(国民)個人の負担料の推移をみましょう
【介護保険 負担料の推移】(65歳以上の月平均)
2000年:2911円 → 2024年:6225円
2000年から約2倍も高くなっています。
被保険者の負担料は年々、上がり続けてきましたが、
これ以上の国民負担は、もう限界と言われています。
ちなみに、介護保険全体の負担割合は、
公費(税金)45%、介護保険料45%、利用者10%
このように定められています。
介護保険がスタートして25年経過した今、
この設計自体を見直さねばならない、岐路に立っているのです。
では、番組での解決策を挙げていきます。
高野教授の解決策
【介護保険の負担方法見直し】
①今以上に応能負担(累進性)を高める
所得が高い人はより多く負担を。所得が低い人は負担をより少なくする
②負担者の年齢を引き下げる
「介護保険の被保険者(保険料を負担する者)は40歳以上ですが、
段階をおって、加入年齢を引き下げることも必要だろう。
(例えば、30歳以上からは加入というように)
若い人も自分が高齢者になった時に困ることを理解してもらう必要がある。」
この高野教授の考えはあくまでも、
被保険者(国民)負担を増やし、財源を増やそうというものです。
僕は、この考えも一理あるとは感じましたが、
次の結城教授の案が何よりも共感すべき内容でありました。
結城教授の解決策
「そんなに難しいこととは思わない。単純に
【公費負担を拡充すべき】
公費割合を、現在の45%から →60~70%と上げていくべき。
国の一般会計の税収は2025年過去最高に計上されている。
税収が増えているならば、その上乗せ分を必要な分野に投入していく、
そういった臨機応変な施策を、国はすすめていくべきではないか。
これ以上、保険料を上げて被保険者の負担を増やすのは限界にきている。
社会全体の問題と考えて、介護保険制度の設計自体を見直す時に来ている。」
ちなみに、この
「公費(国)の負担割合を増やすべき」という考えも、
「れいわ新選組」が同様の介護政策を掲げています。
『介護職員の給与を全産業並みに上げるためには、
また、介護保険制度を持続的に機能させるためには、
上記のような抜本的な改革が求められることを、
私たち介護従事者もしっかりと認識しておくべきと思います。』
問題解決のヒントとなる取組み事例
人材不足解決のヒントになる取組みを行っている事例です。
➊サポーター制の導入
【新潟県長岡市の有料老人ホーム】
この施設では
「介護資格を持っていない人も、出来る仕事を部分的に請け負ってもらう」
サポーターとして雇用する方法をとりいれています。
★バスサポ:入浴業務の補助
★リビサポ:部屋の清掃
★コミサポ:レクリエーション
★イートサポ:食事の配膳
4つの職種に分けて、その人の適性に合う仕事で現場をサポートしてもらうのです。
一日2時間、本人の都合を最優先。時給千円。
この条件で、現在60人のサポーターが登録。
フルタイムで働く職員の確保に悩まされてきたなかで、短い時間で呼んでみないかというアイデアが生まれたそうです。
いくつかの仕事をサポートしてもらうことで、常勤職員の負担が削減し、専門の仕事に専念できるようになっている。
利用者さんも色んな人と話ができることを喜び、
施設内は清掃が行き届いていつも綺麗
などのプラス面が増えているのです。
その結果、赤字続きだったこの施設は人件費を抑制できて、黒字経営に回復したそうです。
今では職員の給与を最大12%UPするなど利益を働き手に還元。
サポーターの育成にも力を入れ始めており、正社員を目指す人もいるそうです。
取材の様子からも、とても雰囲気の良い施設ということが伝わってきます。
(ここで、著者の想いを少し)
全国たくさんの介護施設が存在しているなかで、
「自分の職場以外の施設はどんな運営をしているのだろうか」
情報が全く入ってこないので、僕たちは他施設のことを殆ど知らないのです。
だから
「介護事業所はちゃんとやっているよ、みんな頑張っているんだ」
と自信をもって言えないのが正直な所なのです…
だって『自分の施設以外のことはほとんど知らないのだから』
介護従事者ほとんどの方がそう感じているのではないでしょうか?
この状態も、そろそろ変えていかなきゃならないはずです。
『閉ざされた介護現場をもっとOPEN化していく』
「介護の仕事はこういう良さがある」「職員の姿は」
それをもっともっと一般の方に知って貰わなきゃならない!
それぞれの施設がバラバラに孤立しているような今の状況を変えていかなきゃならない
これは著者が思う、介護業界の「未来への大きな課題」の一つです。
❷地域の力を活かす自治体
【長崎県佐々町】
この町は介護保険サービスの枠を超えて、住民が住民を支える仕組みをつくっています。
地域のボランティアが運営する、
「高齢者のつどいの場」が盛り上がりを見せているのです。
要支援1・2と要介護1の高齢者が多い町ということで、当初は「介護予防」の目的でスタート。
レクリエーションや食事会などで楽しむ、高齢者のコミュニティの場に、今では子供たちも参加したり、様々な世代が集う場になっている。
その効果で「地域のつながりが強まっている」のです。
全国自治体のお手本となるような事例です。
佐々町では他にも、
元気な高齢者がボランティアとして、
要介護者宅を見回り、家事支援などの日常のサポートをする仕組み
も取り入れています。ボランティアの派遣先は町がマッチングします。
1回の利用料200円+町の補助金200円の合計400円が、ボランティアさんに都度支給されます。
町のカフェ利用券なども貰えるみたいです。
地域包括支援センターを中心に、
「できることは地域のなかで連携してやっていこう」という取組み。
その成果で、町の保険給付の費用を抑えられるようになったそうです。
『地域社会のつながりが豊富な人ほど、高齢でも健康に過ごしている』
そのことが実際に証明されている、自治体の成功事例でしょう。
最後に、出演者が語られた、参考になる声を伝えます。
★コミュニケーションが苦手な高齢者も居る。つどいの場に参加されない方も。そういう人にはヘルパーが地域との間に入ってあげる。
★介護施設がポツンと孤立した存在になってはいけない。地域の人が寄りつかないような状態にしてはいけない。佐々町のように地域の力でつながりを構築していければ。
★介護職の社会的地位の向上が必要。3K・低待遇といった負のイメージを払拭しなければ、絶対に成り手は増やせない。学生や若者が生きがいを持って仕事につけるような世の中にしていかなくてはならない。
★いざ自分の親が介護が必要になった時、介護保険がいかにありがたいものかを知った。介護保険はみんなの財産だ。みんなで守っていかねばならない大切な制度だ。
★介護保険制度のひっ迫は、国民みんなの問題である。他人ごとではないことに気づかねばならない。介護はいつか必ず自分に関わってくる、誰もが当事者なのだ。
『誰もが我が事と受け止めて、介護保険制度をどうすべきなのかを、社会全体で考えていく時代となった』
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